そらから先は、家の中でのクロの行動範囲もどんどん広がっていきました。キッチンからリビング、リビングから寝室と、自由に家の中を歩き回ってくれるようになっていきました。ここまで来ると、新たな問題が浮かび上がってきます。


新たな問題

そう、新たな問題とは、去勢するか否か、です。今も当時も、去勢は常識と言われます。ですが果たして、もうすでに大人になって出会ったクロと、僕たちとの間にその常識があてはまるのか、僕は疑問でした。すんなり常識を受け入れることができなかったのです。妻とも何度も話し合ったことを覚えています。


クロ出会い3 

どうすることが、クロにとって幸せなのか。自然の状態のままが良いのか。去勢してまで、健康で長生きしたいとクロは思うのか。飼い猫として穏やかな余生を送るほうが良いのか。

健康で長生きできるなら、それが一番に決まっています。ですが、クロの自由を奪う気がして、クロの生き様に土足で踏み込むような気がして、人間の勝手なエゴを押し付けるような気がして、僕は決断できずにいました。


ケガ

悶々としたすっきりしない日々を過ごしていたある日、クロがケガをして帰ってきました。ケンカをしたのは一目瞭然です。相手の爪が耳に刺さったのでしょう。穴が開き、膿んでいました。異臭も放っています。病院に連れていき、治療してもらいました。飲み薬と塗り薬をもらいました。

病院から帰ってきたあとも相当痛むようで、クロは家の中でじっと丸まって動きませんでした。こんな弱ったクロを見たのは初めてでした。

それから数日間、毎日朝晩クロに薬を飲ませました。猫に薬を飲ませるなんて初めての経験でうまくいきません。嫌がるクロと毎日格闘です。後半にはずいぶん慣れてきましたが、悪い意味でクロも慣れてしまいました。飲んだフリをするのです。薬を与えた気になって油断していると、ちょっと経ってから、ペッと吐き出すのです。

クロ出会い4

薬がなくなる頃にはもうすっかり元気です。クロの元気な姿を再び目にして、妻と僕は決断しました。去勢しようと。


去勢

クロの自由を奪うことになっても、人間の勝手なエゴだとしても、クロが傷つくよりははるかに良い。そう考えました。クロの一生を左右することです。おそらくこれは正しいことではないのかもしれない。なぜなら僕もクロと同じだからです。一つの個性、一つの命に変わりありません。クロは猫として生まれてきただけ。僕は人として生まれてきただけ。そこに優劣や上下はありません。自分の一生を決めるのは自分。他人に左右されるものではない。そう考えていた僕は、クロと自分を重ねていたのです。だからこそ、決めました。覚悟を。これは、人のエゴだと。


約束

クロは不服かもしれません。だから、僕はクロと約束をしました。もっと楽しくなるよ、と。妻も僕もクロのことが大好きだから、きっともっと楽しくなるよ、と。

クロは返事をしてくれたかどうかわからなかったので、一方的な約束だったかもしれません。


現在

あれから10年近く経った現在、クロはハルとユウの兄貴分です。ハルには厳しく、ユウには甘いクロです。そんなクロですが、ハルやユウの顔をよく舐めてあげています。まるで母猫が仔猫にするように、目を細めて愛情たっぷりに舐めてあげます。しかもなかなか終わりません。ハルとユウは「もうやめて~!」と言っていつも逃げてしまいます。ちょっと寂しい顔をして、ふて寝するクロです。

そんな様子を眺めているときに、ふと思い出したのです。クロとの約束のことを。

守れているかな? きっと守れているよね?

眠っているクロに、僕は思わず声をかけました。

「これからも、よろしくね」




最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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